親が施設に入った、あるいは亡くなって実家が空いたものの、実家じまいをどう進めればいいのか分からず、時間だけが過ぎている。そんな状態で気持ちが重くなっている方は少なくありません。
家財の片付け、名義の確認、売るか残すかの判断、費用の負担など、考えることが一度に押し寄せるため、どこから手をつけるかで止まってしまいがちです。
この記事では、この取り組みを進めるうえで先に整理しておきたい順番と、費用や税金の考え方を、公的な情報をもとに整理しています。全体像をつかむことで、今の自分に必要な最初の一歩が見えてきます。

実家じまいで迷う人が最初にぶつかる壁
実家の整理が進まない背景には、気持ちの問題と段取りの問題が重なっているケースが多くあります。ここでは、特に多くの方が直面する3つの場面を取り上げます。
気持ちの整理が追いつかず手が止まる
実家には家族の思い出が詰まっているため、片付けや売却の話を切り出すこと自体に抵抗を感じる方は多いものです。
特に親がまだ存命で、施設や子ども世帯の近くへ移っている場合は、親の気持ちを置き去りにしているような後ろめたさが生まれやすくなります。ただ、気持ちの整理を待ち続けている間にも、固定資産税や管理の負担は毎年発生します。
気持ちはゆっくり整理しつつ、費用や期限といった数字の確認だけ先に進めておくという進め方もあります。両方を同時に動かすと、後から焦って判断する場面を減らせます。
きょうだいや親族で意見が割れる
実家が複数人の相続になる場合や、親の存命中でも将来の相続人が複数いる場合は、実家の扱いをめぐって意見が割れることがあります。
残したい人もいれば、早く手放したい人もいて、話し合いが平行線になるのは珍しくありません。実務では、意見の違いの原因が感情よりも「情報の差」であることが多く、評価額の目安、毎年かかる維持費、使える税の特例とその期限などを全員が同じ資料で確認すると、話が進みやすくなる傾向があります。
まずは事実を共有することが、話し合いの前提になります。
家財・名義・費用のどれから始めるか分からない
この作業には、家財の整理、名義と相続登記の確認、売却や解体の検討、費用の見積もりと、複数の作業が含まれます。
すべてを一度に進めようとすると負担が大きく、かえって何も進まなくなりがちです。判断の順番としては、まず名義と期限の確認、次に家に何が残っているかの把握、そのうえで売却や解体などの方針を比べるという流れが考えやすいでしょう。
順番を決めておくだけで、無駄な作業ややり直しを減らすことができます。
関連記事:【実家の売却に迷っている方必見】整理しておくべき5つのポイントを徹底解説
実家の整理が先送りされやすい背景と、先送りの負担
実家をそのままにしておく人が多いのは事実ですが、時間がたつほど選択肢や費用面の負担が変わる点には注意が必要です。
使われていない住宅は全国で増え続けている
総務省統計局の令和5年住宅・土地統計調査によると、全国の空き家は900万2千戸で過去最多となり、空き家率は13.8%と過去最高になりました。
そのうち、賃貸用・売却用や別荘などの二次的住宅を除いた空き家は385万6千戸で、2018年から36万9千戸増えています(総務省統計局)。
実家を空けたまま持ち続けている世帯が、決して特別な存在ではないことが分かります。同時に、地域で空き家が増えれば周辺環境にも影響が及ぶため、行政も対策を強めている状況です。
管理が不十分だと固定資産税の軽減が外れることがある
住宅が建っている土地には、固定資産税が軽減される住宅用地の特例があります。2023年12月に施行された改正空家法では、放置すると危険な「特定空家」に加え、そこに至る前段階の「管理不全空家」も新設されました(国土交通省)。
市区町村長から勧告を受けた場合は、特定空家だけでなく管理不全空家の敷地も住宅用地特例の対象から外れます(国土交通省資料)。
空き家であることだけで直ちに税が上がるわけではありませんが、管理状態によっては負担が増える可能性があります。
名義が親のままだと動けない場面が出てくる
実家を売却する、解体する、賃貸に出すといった判断を実行するには、原則として名義が整っている必要があります。
相続登記は2024年4月1日から義務化され、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請しないと、正当な理由がない場合は10万円以下の過料の対象となります。
施行日より前に相続が発生していた場合も未登記なら対象で、2027年3月31日までに申請する必要があります(法務省)。名義の確認は、早い段階で済ませておきたい項目です。
関連記事:空き家の片付けは自分でするか業者に頼むか、費用と手間の判断基準

実家じまいの進め方を判断するための視点
進め方に正解は一つではありません。判断を分ける視点を順に確認していきましょう。
残すものと手放すものの線引きを先に決める
家財の整理は、この作業の中で最も時間と体力を使う作業です。
最初に「家族で共有したい思い出の品」「貴重品や書類」「処分してよいもの」の3つに大まかに分けておくと、作業が進めやすくなります。
業者に依頼する場合、残すものと処分するものを明確にしたうえで、できるだけ作業に立ち会うことが、国民生活センターからも注意点として示されています(国民生活センター)。
大切な品が誤って処分されるのを防ぐためにも、線引きは先に済ませておくと安心です。
売却・解体・賃貸・維持を比べる軸
方針を決めるときは、費用、手間、将来の使い道、期限の4つの軸で比べると整理しやすくなります。
売却は維持費から解放され、現金化できる一方で、思い出の場所を手放すことになります。解体は更地にして売りやすくなる場合がありますが、建物がなくなることで固定資産税の軽減が外れるケースがあります。
賃貸は収入が見込める反面、管理や修繕の負担が続きます。維持は選択肢を残せますが、管理の手間と費用が毎年かかります。どれが向いているかは、物件の立地や築年数、家族の事情によって変わります。
使える税の特例と期限を確認する
相続した実家を売却する場合、一定の要件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります。
主な要件は、昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること、相続開始の直前に被相続人以外の居住者がいなかったこと、相続から売却まで事業・貸付・居住に使われていないこと、売却代金が1億円以下であること、そして相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることです。
令和6年1月1日以後の譲渡で相続人が3人以上の場合は、控除額の上限が2,000万円になります。特例の対象となる譲渡は令和9年12月31日までです(国税庁)。要件は細かいため、事前に確認しておくことが大切です。
費用の見積もりは複数社で比べる
家財の片付けや処分を業者に頼む場合、作業内容や料金は業者によって差が大きいため、複数の事業者から見積もりを取って比べることが勧められています。
国民生活センターには、電話で聞いた金額が約20万円だったのに作業後に約30万円を請求された、見積書をもらっていなかった、といった相談事例も紹介されています(国民生活センター)。
作業日、作業内容、料金、支払方法、解約料を事前に書面で確認しておくと、後のトラブルを減らせます。
関連記事:生前整理とは?進め方の順番と遺品整理との違いを実務の視点で解説
実家の片付けでよくある誤解と見落としやすい点
「実家の整理は、片付けをすべて終えてからでないと売却の相談もできない」と考える方は多いのですが、実際には、片付けと並行して査定や相談を進めることも可能です。
むしろ、売却の見通しが分からないまま家財の処分に多額をかけるより、先に価格の目安や買い手の動向を把握したほうが、費用をかける範囲を判断しやすくなる場合があります。また、「更地にしたほうが売りやすい」という見方も一概には言えず、解体費用の負担や固定資産税の軽減が外れる点を考えると、現況のまま売り出したほうが有利なケースもあります。
特例の要件を満たすかどうかで手取りが変わることもあるため、解体や片付けに着手する前に、使える制度を確認しておくと安心です。
まとめ:実家じまいで最初にやること
実家じまいは、気持ちの整理を待つ間にも、名義の確認、家の状態の把握、費用と税の特例の確認といった事実の整理を並行して進めることができます。
最初の一歩としては、登記簿などで名義を確認し、相続登記の期限に余裕があるかを確かめることをおすすめします。次に、家財の線引きと、売却・解体・賃貸・維持のおおまかな比較を行い、必要に応じて複数の事業者から見積もりを取りましょう。
判断に必要な数字がそろわないときは、住所と築年数から周辺相場を整理するといった無料の診断を使うのも一つの方法です。
関連記事:相続でやることを期限順に一覧整理|流れと注意点をわかりやすく解説
参考・出典
・総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計 結果の概要」
・国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律(令和5年法律第50号)について」
・国土交通省「固定資産税等の住宅用地特例に係る空き家対策上の措置」
・国税庁「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
・国民生活センター「遺品整理を頼むときは、事業者選びは慎重に」
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